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2022winter
第7回「学生の制作する音楽録音作品コンテスト」受賞作品制作レポート
空彩〜SORAIRO〜
名古屋芸術大学 芸術学部 芸術学科 音楽総合コース 3年伊東 桜佳
概要
本作品は、私の妹が作曲した楽曲を、“360 Reality Audio向け制作ツール”を使用し、立体音響作品として制作したものです。この楽曲は両手両足を使用して演奏する電子オルガンのソロ演奏用に作曲された作品でしたが、今回は、各パートをDAWに録音し、3D Audio作品としてステレオでは表現できないような音楽表現を目指しました。本稿では、企画動機や制作内容に関してご説明いたします。
ABSTRACT
This is a piece of music composed by my sister, which was created as a 3D audio work using the “360 Reality Audio Creative Suite”. This piece was composed for a solo performance on an electronic organ that is played with both hands and feet, but this time, I recorded each part on a DAW and aimed to create a 3D audio work that could not be expressed in stereo. In this article, I will explain the motivation for the project and the details of the production.
1. はじめに
このたび、優秀音楽作品賞という素晴らしい賞をいただき大変光栄に感じております。今回制作した作品は、電子オルガンの曲を立体音響作品にしたものです。この作品を制作するにあたって、楽曲提供および演奏の協力をしてくれた、妹の伊東紅佳をはじめ、ご指導いただいた先生方、多くの意見をくださった同期の友人たちにこの場を借りて感謝申し上げます。
私は大学内での様々な配信に参加する中で、バイノーラルの配信にも多く関わってきました。その中ではクラシック音楽や生の楽器でのバイノーラル配信が中心だったため、ポピュラー音楽での立体音響作品に興味を持ちました。また、私自身が幼い頃から学んできた電子オルガンの作品を立体音響で表現することにも興味があり、今回の制作へ繋がりました。
2. 本文
作品の企画意図
この作品を作曲した私の妹は幼い頃から毎年電子オルガンでの作曲を続けています。高校生になり初めて電子音を使って制作したこの曲は、引っ越して離れ離れになってしまい、さらにコロナ禍で会えなくなってしまった友人への思いを空と重ねて作曲した電子オルガンの楽曲です。通常、電子オルガンでの演奏は両手両足を用いて演奏し、音の表現はステレオのみですが、パートごとにオーバーダビングし、“360 Reality Audio向け制作ツール”でミックスすることで、この楽曲の世界観をより拡張するような立体的な音響で音楽を表現できるのではないかと考えました。
楽曲概要
曲名:空彩~SORAIRO~
作曲:伊東 紅佳(同朋高等学校 音楽科 電子オルガン専攻2年)
使用楽器:電子オルガン(YAMAHA Electone ELS-02C)
楽曲説明:毎日変化していく空は、その日の自分の気分次第で様々な彩を見せてくれます。嬉しい時も悲しい時も、力付け励ましてくれる空は、世界中と繋がっており、コロナ禍で今は会うことができない、大好きな友達とも繋がっています。雨が降る空や、朝日や夕日が煌めく空など、様々な表情を見せてくれる空を表現するために、ピアノや電子音を使い音色やリズムにもこだわって作曲をしました。空はどんな時でも必ず私たちを見守ってくれています。辛い事があってもそれを乗り越えた先には、必ず笑顔があると信じて、みなさんの幸せを願い、心を込めて演奏しました。(作曲者 伊東紅佳より)
レコーディングについて
録音会場
自宅(YAMAHA Electone ELS-02C)
録音機材
DAW:Pro Tools
Audio I/F:Focusrite Scarlett 4i4
電子オルガンの録音は慣れた演奏環境である自宅で行なったため、演奏者にあまり負担のない程よい緊張感で録音することができました。また、1人で複数の楽器を演奏できることが特徴的な楽器ではありますが、楽器ごとに分けて録音をすることで、楽器の特徴を考え奏法を変えながら、細かく表現を付けることができました。リバーブに関しては、電子オルガン内で一切ない状態にした上で録音し、ミックスの時点で追加することにしました。
ミキシングについて
ミキシング環境
モニター環境:名古屋芸術大学 東キャンパス 2号館 コントロールルーム1
Genelec 8330A×11 Genelec 1092A(LFE)×1
使用機材など:DAW Pro Tools Ultimate 2020.11
360 Reality Audio向け制作ツール
SSL SL4000G+ I/F ProTools MTRX
音像定位
軸になる音はMid Layerを中心に配置し、シンセやパッド等の音を様々な位置に配置することで、曲の安定感と立体音響での表現のバランスをとりました。
自己総評
今回、楽器ごとに分けて録音することで、各楽器の細部まで完成度の高い演奏を録音することができました。そして、立体音響にしたことで各音が何を表していたのかを細かく表現することができました。しかし、電子オルガンソロで演奏したときに比べ、一体感が欠けるように感じました。パーカッションのセクションがない部分では、テンポを合わせて弾くのが難しく、揃えるためにクリックをつけると音楽が機械的になってしまうなど上手くいかない点がありました。これらは何台かの楽器を使用し、同時にアンサンブルとして録音することで改善されるのではないかと考えます。キックとスネアの音に関しては、電子オルガンの音ではアタックが足りず、Roland TR808のサンプル音源に差し替えました。しかし、モノ音源だと直接音感が強く、空間を感じにくかったため、ステレオにする必要がありました。今後は、そのような音についても考えながら制作していきたいと思います。
また、リバーブ成分の一切ない音で録音したことにより、“360 Reality Audio向け制作ツール”で定位を決めながらリバーブの調整が可能になり、自由に空間を作り出すことができました。しかし、そのぶん直接音感が強く感じられる部分がありました。制作していくなかでリバーブの定位の仕方や量によって音の表情が変化していくのを感じたため、さらに研究する必要があると感じました。
3. まとめ
今回妹の楽曲で制作しようと思ったきっかけは、コロナ禍で家にいる時間が増え、一緒に過ごすことが多くなり、姉妹でお互いの演奏を聴ける機会が増えたことです。これまで学校生活に追われ、なかなか演奏している曲を聴く機会はありませんでしたが、妹の作曲した楽曲を聴き、立体音響作品にしてみたい曲だと感じました。また、立体音響作品を作ることに興味を持ったのは、コロナ禍で始まった大学内での配信に参加し、バイノーラルの配信にも多く関わったことがきっかけでした。このような状況になり、なかなか以前のようにはいかないことも多くありますが、このように新しいことを発見、挑戦できる機会へと繋がりました。
今回、立体音響の音楽作品制作をするなかで、ステレオでも十分に音楽は楽しめますが、立体になることで音楽の表現はさらに広がることが感じられました。使用した“360 Reality Audio向け制作ツール”に関して、さらに研究していくことで、より自分の表現したい音楽を制作していけるのではないかと思いました。また、電子オルガンを使用しての音楽作品の制作は、様々な表現をしていくことが可能なのだと改めて感じることができました。このたび、このような賞を頂戴し、発表する機会をいただけたことで、姉妹で幼い頃から学んできた電子オルガンの作品を、多くの方に聴いてもらえることを嬉しく思います。これからも自分自身が伝えたいものをさらに自由に表現できるよう、研究や挑戦を続けていきます。素晴らしい機会をありがとうございました。
執筆者プロフィール
- 伊東 桜佳(いとう おうか)
2001年、愛知県生まれ。
2歳からヤマハ音楽教室に通い電子オルガンを習う。浜松学芸高校 芸術科 電子音楽課程に入学し、音楽や電子オルガンついて専門的に学ぶ。卒業後、音楽についてさらに深く学ぶため、名古屋芸術大学 芸術学部 芸術学科 音楽総合コースに入学。電子オルガンを専攻し、サウンドメディア・コンポジションコースで録音・作曲について学んでいる。